50システム「コンタクトPUの音が小さい」というご相談
50システム「コンタクトPUの音が小さい」というご相談を頂き、
電話とメールでのサポートでは解決できなかったので、一式をお預かりすることに。
まずは、
・コンタクトPU
・コネクタBOX
・ケーブル
・PM-50
のハードウェア・チェックを行い、問題無いことを確認。
ふと見ると、RING-CH(マグネット)のゲイン調整(黄色いツマミ)がフルになっているではありませんか!
むむっ
※上が預かった状態
下は再調整して正常にした状態(わかりやすいように黄色ノブに白色を付けました)
【ゲイン調整についての解説】
話を簡単にするために単位も絶対値も無視しますが、例えば
・コンタクトPUの元々の音量=5
・マグネットPUの元々の音量=20
※実際にはこれらは楽器によって大小のバラツキがあります。
これを増幅して共に100にしようとした場合、
・コンタクトPU:5 x 20倍 = 100
・マグネットPU:20 x 5倍 = 100
こういう調整をするためにゲイン調整(黄色いツマミ)を設けており、両CHのゲイン増幅結果が揃っていれば、フロントパネルのCNTボリューム(緑)、MGボリューム(青)をフルにした時の音量が同じになる訳です。
↑
PM-200のゲイン調整も同様です。
今回の場合、
・コンタクトPU:5 x 30倍= 150
・マグネットPU:20 x 30倍= 600
という設定になっていました。
結論は「コンタクトPUの音が小さい」のではなく、「マグネットPUの音が大きすぎる」と言う状態。
MGチャンネルのゲイン設定を見直すことで問題は解決しました。
***
実はあと2点、ギター本体にも小さな問題が隠れていました。
1)ブラス(真鍮)のブリッジピン
それぞれのギターの個体差で音量は異なりますので、上記の話(コンタクトPUの元々の音量=5)は実際にはバラツキがあります。
通常はだいたい
・コンタクトPU:5 x 20倍 = 100
前後になるのですが、
今回の場合は
・x30倍 しても100より少し低く、85〜90な感じ
生音も確かに小さめで、何かが引っかかって全力を出し切れていない印象。
ギターをよく観察してみると気になる点が2点ありました。
・ブリッジピンがブラス製
・サドルの引っかかり
ブリッジピンに関しては、ブラスのものは他の材質のピンと比較してかなり重く、それを6本も入れてしまうと、ギターにとってはかなりのストレスになります。
例えば、小学生のランドセルに10kgの重りを入れて「跳び跳ねて」というようなイメージ。
屈強な大人(=少々鳴りすぎるギター)にそういう微調整を行う事もありますが、その場合も使用するブラスピンは1or2本といったところ。
【参考資料】ブリッジピンの質量(6本)
・プラスチック:3.5g前後
・ウッド:3.7g前後
・ボーン:7.3g前後
・象牙:資料紛失(ボーンの1.2倍くらいだった記憶あり)
・ブラス:27g前後 ← 重い!
ブリッジ周辺は振動の発信源ですので、たった3,4gの重さの変化でも、音が変化することははっきりとわかります。
見た目が美しいから牛骨、高級だから象牙のピンに。
マイケルヘッジスにあこがれてブラスピンに。
↑これ私も若い頃にやりました(笑)
安易にブリッジ周りの重さを変化させてしまうことがどれほどギターの音に影響を与えてしまうのかご理解頂けたかと思います。
新型の○○ピン、サスティーンを増やす魔法のピン、など、
それらはすべて質量のコントロールであり、弦を弾いて発生したトップの振動エネルギーをどういう形で使うか、ということなのです。
・軽い場合:鋭く立ち上がり、山は高く、減衰も早い
・重い場合:立ち上がりが鈍く、山は低く、サスティーンは長い
対策として、手持ちのウッドピンに交換しました。
2)サドルのひっかかり
サドル底面にシムなどが入っていないか、を確認するためにサドルを抜こうとしたところ、なかなか抜けず、専用工具を使用してやっと、という感じでした。
サドルをよく観察してみると、厚さには問題は無かったのですが、長さ方向、厳密に言うとサドル端のRがスリットのカーブと合っていなくて、少し溝に引っかかっている感じでした。
このせいでサドル底面がブリッジに完全な面接触をしていない可能性があったので、サドル端を整形して、サドルがスーっと溝にはまる様に微調整を行いました。
この1)2)の微調整を行った結果、
>・x30倍 しても100より少し低く、80前後な感じ
だったのが
・x30倍 = 100
になりました。
アコースティックギターという楽器はこのような小さな事の積み重ねなのです。
どんなに高級な材料を使っても、こういう小さな事を積み重ねが出来ていないと決して良い楽器にはなりません。
そして時にはその逆も。素性は良い楽器だったとしても、正しい調整が出来ていないとその楽器が本来持っているポテンシャルを充分に発揮出来ない、ということになってしまいます。
あの伝説のソモギーにしても、突然あの様な銘器が完成した訳ではなく、アービンさんの長年の研究と発見による小さな事の集合体なのです。
なのです、と言い切りましたが、、私はそう考えています。
ながっ!(笑)